短編「ウ」

カワウ

物干し竿

(カワウと物干し竿は同じ俳優が演じるものとする。)

 

1

 

井の頭公園

 

舞台上手、池にかかる橋を男と女が渡ってくる。

 

舞台下手、俳優が立っている。

俳優、とつぜん両腕を肩の高さに広げて静止。手は握らず、指同士の隙間をくっつけて伸ばす。

 

女 (俳優を指さして)ウ! ウ! ウ!

 

俳優、ウ(カワウ)になっている。

 

男 え?

女 ウ! ウ!

男 え?

女 あれ!

男 ああ。

女 かわいー!

男 そう?

女 乾かすために羽広げてるんだって。

男 へー。

女 本当なら水はじくために油を分泌したらいいんだけど、水に潜って魚とるから油があると都合悪いんだって。

男 よく知ってるね。

女 なんか小説で読んだ。

 

カワウはじっとしている。

 

女がうんちくを話し続けたり、そこから関係ない雑談を延々と繰り出す。

その場に立ち止まる二人。

それを見ているのか見ていないのかはわからないがじっとしているカワウ(俳優)。

 

男 こっち引っ越してきてから全然洗濯物干してない。めちゃくちゃコインランドリーで乾かしてる。

女 へー。

男 (カワウを示して)自分で乾かしててえらいね。

女 乾燥機高いでしょ。

男 そんなことない。100 円で 9 分。18 分やれば 8 割乾く。

女 高いよ。8 割じゃだめじゃん。

男 (カワウを示して)俺はあいつみたいに見積もれない。

女 ......。

 

カワウ、じっとしている。

 

男 ソフトクリーム食べに行こ。乾燥機31分半(350円だから)。

 

女 見積もってる。

 

二人、退場。

 

俳優、

 

2

 

俳優、同じポーズのままいつの間にか物干し竿ということになっている。

 

ここは三鷹の男の部屋のベランダ。

 

男、洗濯物を持ってベランダへ出てくる。

 

俳優の腕に濡れた衣類をかけていく。

 

作業が終わり、男は退場。

 

間。

 

俳優、物干し竿をやめて退場。