女の子がベビースターの欠片を持って鳩をジグザグ追いかけている。その向こうでは、女の子と男の子がふたつレールのあるすべり台をそれぞれの担当するレールを律儀に守って何巡もすべっている。女の子は頂上で滑り降りるときに「いくよー!」と誰に対してでもなく叫ぶ。二人の母親は地上で話をしながら、その様子を視界におさめている。時折、笑い声をたてる。あるときには東横線の線路が軋む音が絶え間なく聞こえる。またあるときにはさっきまで誰かがいたブランコがその名残を保って揺れている。奥に向かって細長い公園の入り口近くにある水道と、その真逆、東横線の線路に近づく公園の奥側を、水をくんだ小さなバケツを持った子供が往復する。ここからは見えないシーソーの奥では水遊びや砂遊びが行われているのだろうか。東横線が静かになるたび、子供たちの声とはるか上の方で鳴くカラスの声が目立つ。
 その場所に男がやってくる。男はベンチに座るとノートとシャーペンを取り出す。男は手に持ったノートと目の前の風景を交互に見比べて、ノートに次のような文章を書きつける。

 女の子がベビースターの欠片を持って鳩をジグザグ追いかけている。その向こうでは、女の子と男の子がふたつレールのあるすべり台をそれぞれの担当するレールを律儀に守って何巡もすべっている。女の子は頂上で滑り降りるときに「いくよー!」と誰に対してでもなく叫ぶ。二人の母親は地上で話をしながら、その様子を視界におさめている。時折、笑い声をたてる。あるときには東横線の線路が軋む音が絶え間なく聞こえる。またあるときにはさっきまで誰かがいたブランコがその名残を保って揺れている。奥に向かって細長い公園の入り口近くにある水道と、その真逆、東横線の線路に近づく公園の奥側を、水をくんだ小さなバケツを持った子供が往復する。ここからは見えないシーソーの奥では水遊びや砂遊びが行われているのだろうか。東横線が静かになるたび、子供たちの声とはるか上の方で鳴くカラスの声が目立つ。

 書き終えると男はノートのページを切り離してクシャクシャに丸め、ベンチから立ち上がって宙に放り投げる。すると、そのとき飛んできたカラスがそれを咥え、どこかへ持っていってしまう。その瞬間、男の体は消えてなくなる。
 公園では、女の子がベビースターの欠片を持って鳩をジグザグ追いかけている。その向こうでは、女の子と男の子がふたつレールのあるすべり台をそれぞれの担当するレールを律儀に守って何巡もすべっている。女の子は頂上で滑り降りるときに「いくよー!」と誰に対してでもなく叫ぶ。二人の母親は地上で話をしながら、その様子を視界におさめている。時折、笑い声をたてる。あるときには東横線の線路が軋む音が絶え間なく聞こえる。またあるときにはさっきまで誰かがいたブランコがその名残を保って揺れている。奥に向かって細長い公園の入り口近くにある水道と、その真逆、東横線の線路に近づく公園の奥側を、水をくんだ小さなバケツを持った子供が往復する。ここからは見えないシーソーの奥では水遊びや砂遊びが行われているのだろうか。東横線が静かになるたび、子供たちの声とはるか上の方で鳴くカラスの声が目立つ。