無人の路地裏、民家のコンクリート塀にプロジェクションされたアイドルの少女が歌っている。また、踊っている。音はなく、その様子だけが映っている。アイドルは何人組かのグループのようで、最初ある一人が映っていたのが、今度は別の一人になり、次はその二人を含めた四人に、その次は初めて見る二人になり、またその次はさっき二人目に出てきたメンバーに、というように映像は切り替わる。何度かに分けて撮られた、もしくは何台かのカメラで撮られた、もしくは何度かに分けて何台かのカメラで撮られた素材(カットと呼ばれるようだ)が、編集で組み合わさってできた一連の映像。グリーンバックか何かで撮られたのか、映像のなかの彼女たちは輪郭だけ切り取られて背景がなく、塀のグレーの上にそのまま貼り付けられている。
ガガガガと音がする。その狭い路地裏に一台のユンボが入ってこようとしている。たしか、この場所にユンボが入ってくるのは、何十年前か、この道が今と同じ形に整備されたとき以来だったはずだ。黄色く塗られたユンボがアイドルの塀の前にあらわれる。どこからかプロジェクションされているアイドルの映像は、ユンボの車体に差しかかると折れ曲がる。黒いスーツを着た運転手は、なぜか目をしばたたかせながら、窓の外、上の方に、しきりに何かを探している様子。そうか、プロジェクターの光が、実はずいぶん眩しいのだ。アイドルたちのダンスは先ほどより激しさを増している。次の曲に変わったのか。ライブで盛り上がりそうなダンスチューンだ。
しばらくして、運転手は視線の先に誰かを発見したのか、うなずいて合図を送る。ハンドルに向き直った次の瞬間、運転手はとつぜんレバーを動かし、それまで静止していたショベルを起動させる。ショベルは塀を破壊しはじめる。そこに映るアイドルたちもろとも。運転手はずっと貧乏ゆすりをしている。貧乏ゆすりをしながら、塀を壊していく。アイドルたちは激しい踊りに汗を流している。
ユンボのショベルによって塀が破壊し尽くされたあと、その向こうの空間、庭にあったのは大きなグリーンバックで、その前に私が立っていた。プロジェクションされる面がなくなったアイドルたちの映像の光の粒子を一身に受ける私を、誰かが上から撮影していた。グリーンバックで輪郭だけ切り取られたその私の仁王立ちの映像を、最後にせめて一度見せてくれるくらいのことはしてほしい。